生まれたときから父親を知らないワタル。
母親は彼に出生の秘密を打ち明けない。
ボクはみんなとはどこかが違う、トクベツな子供なんだ・・・
小学生の頃にそう認識してしまったワタルが
自分自身を振り返る17年と11ヶ月の日々。
友達、異性、教師、親との関わりを通して
少年の成長過程が実に丁寧に描かれている。
特に、幼なじみのサチとの交流が微笑ましい。
いつもそばにいるサチを通してワタルは確かに成長していく。
それからワタルと母親との関係。
幼い頃から二人だけだった彼らの濃密な関係は
ワタルが思春期を過ぎ青年期になってもその絆の深さは変わらない。
母親は最期になってワタルに出生の秘密を打ち明ける。
「真実って、空の雲みたいなものなの。目を開ければすぐそこにあるんだけど、
触れることはできない。近づこうとしても、なかなか近づけない。
しかもどんどん流れていっちゃうし、カタチも変わっていく。
研究者としては、言っちゃいけないことかもしれないけど、最後にはこう思っちゃう。
考えてもしかたないって」
考えてもしかたない。そうさ。少なくともぼくは、母さんと二人きりでも、
ずっと楽しかったし、幸せだった。母さんもそう思っていたことを願うしかなかった。
様々な試練を乗り越えて自ら自分自身の存在理由を見つけたワタルは
きっとこれから先の長い人生を逞しくしたたかに生きていくだろう。
ワタルとサチの将来を見てみたい。